<参考31>  鳥(カモ類)の主翼について 名称と機能

 

 
飛行中の画像は3月中下旬に撮ったヒドリガモ、(上はオス、下はメス)、下の静止画はカルガモ。オナガガモ、コガモ、マガモなど同族のカモ類は皆これと似たような羽の構造をしている。

鳥のことにあまり関心の無い頃、鳥の羽ばたきは翼を丸ごと煽(あお)っているものと思い込んでいたが、写真を撮ってみると、羽ばたいているとき、大きく動かしている(特に振り下ろす)のは、翼の半分より先の方だけであることが分かった。
カモ以外の飛行写真はギャラリーに少ないが、セイタカシギ (その5) を見ると、翼を持上げた時には肩から先までほゞ直線化しているが、翼を振り下ろした時には肩側部分は概ね水平までで止まり、翼は途中で折れ曲がったような形になることが分かる。

鳥の主翼は四肢動物の前足が進化したものであることはよく知られている。人の場合前足は腕になった。鳥の主翼を構成する主要な羽は、腕との対応で言えば、肘から先に相当する骨に付いていて、途中に手首に当たる関節(翼角)があり、その元側と先側では異なる機能が使い分けられている。

クイナ族など歩くことを重視し、主翼が半ば退化している系統では、翼の全体を煽るような飛び方をするが、長距離を悠々と飛ぶ普通の鳥たちの飛行では、動力に関する操作を行っているのは翼の半分から先の部分だけで、胴体側の部分はあまり動かさず、(揚力を発生させる)飛行機の翼のような機能になっている。

主翼を構成している主要な羽は「風切羽」と呼ばれ、外側に(10枚位)ある長いものを「初列風切」、そこから胴体側に続く短めのものを「次列風切」と呼ぶ。
「初列風切」は手首から先に相当する手根骨・中手骨・指骨に付いていて、(人が手のひらや指を折り曲げれるように)器用に動かすことが出来、この部分が様々な羽ばたきの操作を担っている。肩側になる「次列風切」は肘から手首までの上腕にあたる尺骨に付いていて、こちらは揚力を発生させる固定翼の基板を形成している。

「風切羽」が骨に付く付根の側半分くらいは、表裏とも別の小さい羽に覆われ補強されている。「風切羽」を覆うように骨の側に密集するこの羽は「雨覆羽」と呼ばれる。
「初列風切」の付根側半分を覆う「初列雨覆」は、風切羽の植込部(羽柄)の隙間を埋めるとともに、風切羽が風圧に負けないように根元側を補強する役割をしているものと思われる。
「次列風切」の付根側は、「大雨覆」「中雨覆」「小雨覆」と呼ばれる3段重ねになっていて、それぞれ下の羽の半分程度を覆う長さになっている。
雨覆は固定翼を空気漏れのない頑丈なものにするとともに、多段構造を採ることで骨の側が厚い翼形状を形成しやすくする。また小さな羽を重ねて翼の表面を平滑にし、空気の流れを整流して揚力の生成効率を高めるという役割も果たしている。

「風切羽」を羽ばたくことで上昇力や推進力が生み出されるのは、個々の羽が羽軸を中心に一方向にのみ撓(しな)うような作りになっていることが利いている。

翼を持ち上げる時には羽の外縁がすぼんで上表面に当たる空気を下に逃がし、翼を振り下ろす時には下からの空気圧を受けて外縁が開き、隣同士の羽が密着して翼が板状に変わるという構造になっている。
特に「初列風切」を構成する羽の羽軸は偏っていて、幅の広い側がより撓い易いアンバランスな形状になっている。「初列風切」はこのような10枚の羽を、広い側を内にしてずらしながら重ねた構造になっていて、翼の上下動に応じ広い側(内弁)がブラインドのように開閉し、空気弁としての機能が働くのである。

カモが地上にいるとき、体側中央の後寄りに青や緑に輝く光沢部分が見えることが多い。これは「翼鏡」と呼ばれる。「翼鏡」は「次列風切」のうち「雨覆」によって隠されない先の部分で、一部あるいは大半部が特殊な色柄に染まっていることによる。
「次列風切」のこの特徴的な輝きは、翼を畳んでいる状態では隠れて見えない場合も多いが、飛行中には後続によく見え、群を成して渡る際に仲間に対し目印の役割を果たすものといわれる。
カルガモは羽を畳んでいる時にも「翼鏡」が見えるのが普通だが、ヒドリガモの場合はオスメスともに、地上では「翼鏡」らしいものを見ない。ただ飛んでいるところを写した写真を見ると、「次列風切」は黒っぽく(青や緑の鮮やかな光沢があるかは不明だが)、白い縁取りがあるなど、何らか「翼鏡」に似た特異な部分のあることが分かる。

 

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