この日(2015年5月4日)シオクグは生き生きとして輝きがあり、全体が花を付け見栄えが良かった。
左とその上下の3枚の写真は2015年5月4日に撮ったもので、この時は周囲に幾らか落ち着きというか余裕が感じられて、ここのシオクグは生息域が安定的に確保され、絶滅は免れたという印象を持った時のものである。
シオクグは同一株に雄小穂と雌小穂の双方を付ける。小穂の下部には苞があるが、苞は長い葉状となって、穂全体より長く伸びるので、葉の間に穂があるような格好になる。
先端には雄小穂がつき、そのすぐ下に、第2、第3の雄小穂をつける場合もある。これらの雄小穂は小型で、時に褐色をしており、次第に赤みを帯びてくるものもある。左の写真で茶色く枯れたように見えるのが雄小穂の痕跡で、既に役目を果たして枯れ脱落する直前のものと思われる。
雌小穂は中程に複数個生じる。左の2枚目と3枚目の写真は雌小穂を撮ったもの。先端から伸び出ているのは花柱で3分岐する。
ここからの3枚は同じ場所で2015年5月30日の撮影。
ここからの2枚は同じ場所で2015年6月7日の撮影。
この小道は(写真の部分は安全なように見えるが)、大師橋緑地の最奥から分け入って水路に出た場所で出会える水際沿いの危うい道。(川下側は大師橋上手の干潟に続くが、川下側はどこかで行き止まりになる。)
大師橋緑地先のヨシ原は、近代までの蛇行水路時代に右岸の東門前の方に向って広がっていた広大な葭原の名残で、ぶったげられて残った根元部だ。低水路に護岸は無く、崩れかかったような水際土台の弱さもあって、水路沿いは所々で道が途絶え貫通していない。その不便を凌ぐため河川敷から水際に通じる小道が何本も出来ている。
この先の蛇行水路時代に由来する淀みが干潟化した一画にトビハゼが生息していて、そこで写真を撮っていた2006年8月頃には、この道を頻繁に通行していたが、一応の目的を達成してから後は、(この界隈の環境に嫌気がさす要素もあって)、2、3年に一度程度しか見に行かない状態が続いていた。
2015年6月7日に大師橋緑地先にシオクグを撮りに行った際、緑地の奥まで足を伸ばし、久々にこの道に出て干潟を見に行ったが、その際この道の両側にシオクグが綺麗に茂っているのに気付き、こっちの方にもシオクグがあることに感激しつつこれを撮った。(ここは本羽田3丁目地先になる。)
ここからの2枚は本羽田1丁目地先に戻って、2015年7月20日の撮影。
果実はすっかり熟していた。果胞は大きいが中の痩果は小さく、全体に分厚いコルク質で出来ている。海水に浮び海流に乗って散布されるための適性を感じさせる。
この頃はこの護岸縁にトウオオバコを撮るために通っていた。この時期になるとここの護岸回りもやはりヨシに激しく攻められていて、初夏にきた時ここのシオクグはもう安泰だと感じたことが誤りであったと悟った。
ヨシに被われてしまうと日照も危うくなり、周囲が濃い藪状態になって、環境は初夏に感じたものとは大きく様変わりしていた。シオクグは圧迫されて、花を付けていた場所のうち果胞を抱くに至っている場所は僅かしか無く、藪漕ぎして抜けた辺りにありトウオオバコも存続は保証できないという様子だった。
写真は2015年4月下旬の撮影で、場所は多摩川緑地の川下側の終わりに近い辺りの堤防法面。法尻に近い辺りだったが、法面には違いなく、カヤツリグサの類の種がこのような乾いた場所にあるのは驚きだった。ヤワラスゲ自身は別に珍しい種ではないらしいが、この界隈ではこの時始めて見た。
シオクグは川の水辺に近い浅瀬や湿地、精々が湿気た陸部という所でしか見かけない。メリケンガヤツリのような外来種が水域から離れた堤防側で見られるような場合でも、雨が続いて橋梁の下に水溜りが続くようなケースで、その周囲に急速に増えるようなことがある程度で、本格的な非湿地にもカヤツリグサ類が生えることを初めて知った。
この時の規模は数十株の塊りが近くに2か所、同じような高さにあった。いずれも薙倒されたような感じで直立している株は殆ど無かったが、初めてみるもので、人が関わってそうなったものか、名前の通り柔らかくて倒れ掛かったような恰好で自然なのか判断はできなかった。
小穂は特徴的な姿で、花枝の頂上にあるのは太い棒状で、これが雄性部分で白毛状のものを出し、その下に3ケ程度の雌性の小穂が付く。雌性小穂は円筒形で、5〜10列程度の尖った卵形の鱗片の集合体で出来ている。
アゼナルコを始めて見たのは2015年5月3日だった。イネ科の穂が盛んな時期で、上のヤワラスゲも一寸の間に周囲のイネ科の茎や葉が伸びてきてすっかり埋もれてしまっていた頃、京急の六郷鉄橋下に沿う小道を歩いていて、鉄橋下の湿気た土壌でこれを見付けた。
スゲ類だということだが、イネ科の穂とどこがどう違うのか素人には判断できない。ただイネ科が繁茂している堤防近辺の法面や平面では見ないので(ヤワラスゲのようなものがあって混乱するが)カヤツリグサ科ということでも、なるほどと納得する。
京急の鉄橋下は古くから他所では見られないような希少種があったりすることで、知る人ぞ知る貴重な場所だった。京急のこの鉄橋は全径間がトラス構造の純粋な”鉄橋”で、多摩川の汽水域では今日純粋な鉄橋と言えるのはこの一橋のみである。(丸子の品鶴線の鉄橋が両脇を除く中央部がトラスになっているが、他の橋梁は精々低水路上のみがトラスになっているものがある程度で、その他の橋はコンクリート桁や鋼箱桁などの構造になっている。)
鉄橋下が何故特異な環境になるのか定かではないが、恒常的に雨水が滴下することが主因で、鉄橋下が湿地に近い状態になるのだと思う。
3.11が起きてから、各所で行われていた橋梁の耐震補強などに拍車がかかり、この鉄橋も数年前に橋脚の補強工事が行われた。この時期に、鉄橋下は整地されて味気ない普通の場所に変わってしまったが、数年経って又徐々に湿気た場所になってきて、2014年の秋には中間の一画でタコノアシを見付けるまでになった。
このアゼナルコは別に希少種というものではないが、他の河川敷では見られずこの湿気た環境なればこその存在だったのだろう。
小穂の長さは5〜6センチメートル。雌性部分の鱗片や果胞は明瞭な卵形で50〜60列で密接している。
側小穂は大抵雌性のものと言われているが、左に載せた小穂は雌性の鱗片のようではない。これが何なのか不明ではあるが、実際に下垂していた中にこの一本があったので、分からないまゝに敢えて載せておいた。
アゼナルコの小穂は垂れ下がるような付き方をしているので一寸見分けにくいが、頂上に付く小穂だけが雌雄性で他の小穂は全て雌花である。雌雄性の頂小穂では、先側の半分が雌性で元側の半分が雄性になっている。
雌性の部分は太く、雄性の部分は細いので、小穂の全体に段が付いたようになって分かり易い。上から4枚の写真は2015年5月3日の撮影だが、頂小穂のみが雌雄性で、雄花部分が細く、先に向けて途中で段になっているのを見易いように、下の2枚は5月8日に再度同じ場所に出向いて撮り直したもの。
ミコシガヤは日当たりのよい湿った草地に叢生する多年草。
この界隈では、京急の六郷鉄橋下の上手側で、堤防下の通路からバイオリン公園の裏を通って水路方向に向かう鉄橋下の小道が岐れる角の草地にのみ見られる。
数メートル四方程度のそれほど広くない草地だが、鉄橋の直下ではないものの、鉄橋の影響で常時湿気が保たれている場所。他所でミコシガヤを見たことはないが、ここには古くから絶えることなく続いている。
上から4枚の写真を撮ったのは2006年6月の初め。京急の鉄橋下は知る人ぞ知る貴重な湿地になっていて、2004年には晩秋にタコノアシを撮るために通い、翌年には花を見ておきたいと思っていたところ、2005年6月には京急の下手側にあるJR東海道線の六郷橋梁の下でミゾコウジュが見られたことでこの角地のことを知り、8月にはタコノアシの花を撮るために通ったので、この角を頻繁に通り、その度毎に一応見て回った。
この角の草地には他所で見られない草種としてホソイがあり、ホソイと共にミコシガヤがあるという印象だった。ただミゾコウジュが出た年、ミゾコウジュの周囲にはホソイもあったがミコシガヤは無かった。ミゾコウジュは2年続けて同じ場所には出ないと言われ、JR橋梁下も2005年のみで翌年には見られなかったが、その後JR橋梁下が駐車場にされて、草地自身が消滅してしまった。
京急の鉄橋も耐震強化のため、橋脚の補修が行われ、鉄橋下は全て整地され、草地は消滅し数年間は見るべき状態では無かった。然しこの角の草地は鉄橋の直下ではなく、掘り返されるということは無かったため、工事期間中及びその後に精彩を欠いたものの、ホソイもミコシガヤも消滅してしまうということはなく存続し続けた。
ここからの4枚は2014年6月26日の撮影。8年後に思い付いたように撮ったのには深い意味は無かった。京急の鉄橋下は一旦清算されてしまったが、その後草地は次第に復活し、2014年には以前のようなしっかりした株では無かったものの、タコノアシも確認されるようになってきたし、ゴルフの打ちっ放し場の裏通りには、ノイチゴ類やゲンノショウコなど見どころが多くなったため、鉄橋下の小道を通ることが多くなり、その度に堤防下の通路から折れ曲がる角の草地を見る機会も増えた。
この日は天気も良く六郷橋緑地方面で多くの種類を撮ったが、帰りの最後にこの草地でホソイを撮った時、ミコシガヤも撮っておこうと思っただけのことで、時刻はもう夕方の5時半を回っていた。
ミコシガヤの花穂は頂上部に少しの雄花があり、その下の大半部は雌花ということらしい。この年はこの周囲はハルシャギクが乱舞の状態で、この写真を撮った時には写り込んでいるとは思わなかったが、トリミングしたこの大きさでもハルシャギクは除けなかった。
先端部は雄花だということで、その部分をズームしたものを下に載せた。
ミコシガヤの花というと黄色っぽいという印象がある。左の写真も上と同じ2014年6月26日に撮ったものだが、こちらは緑色が濃く、若い花なのか先端に雄花らしいものも確認できず、中央部に2ヶ所咲いたように見える小穂が認められるので、こちらはそこの部分をズームしたものを下に載せた。
左の2枚は2015年6月7日の撮影。この年はミコシガヤが初めて角の草地を出て、小道に沿って水路の方向に少し向かったところにもかなりあった。珍しいことなので思わず撮ったというところだが、株立ちするような全体像を撮れたことは収穫だった。
下に載せたのは同じ写真ではないが、同じ株を撮ったもの。花穂の先端部が違って見えるので、雄花が付いているものもありそうなのでズームしたものを載せておいた。
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