<参考26>  河川敷の春から初夏にかけての草木と花

 

     【アカバナ科】  マツヨイグサ属 : コマツヨイグサ・アカバナユウゲショウ・ヒルザキツキミソウ

 

帰化植物が繁栄して在来種が消滅していく場合には、在来種が吸収される(後から来た種が雑種化する)過程が並行するケースもあると考えられ、現在繁栄している種が原種の性質をどこまで厳密に維持しているかは注意を要する。
種を区別する原点は、繁殖行動をとるか否かにあるわけだから、自然環境下で交雑してしまう場合には、双方はもともと同種であり、高々亜種か地域変異種程度の違いしかなかったことになる。交雑種は一時的には雑種だが、世代を重ねるうちにグラディエーションは均され、かつての二種は一種に収斂する。そこで種を特定する特徴は書き直されることになる。(かつての2種は書き直された種の地域変異種という位置付けになるだろう。)

キク科タンポポ亜科類の綿帽子が目立つようになる5月以降、堤防法面などに背丈の低い黄色い花がチラホラ咲いて見える。これは北米原産で近代に渡来し、昭和になってから海岸や河原に拡がったといわれるアカバナ科マツヨイグサ属のコマツヨイグサである。

コマツヨイグサの花弁は4枚、月見草とか宵待草と呼ばれる黄色い花と同属の小型(径2〜3センチ)のもので、花弁は淡黄色のものが多い。
図鑑によっては、コマツヨイグサは昼間から咲いていると書かれているものを見るがどうだろうか。私の経験では、この花が土手に咲いているのに気が付くのは夕方6時前後のことが多い。淡黄色は光を受けると白っぽくなり、西日がもろにあたると見え難い存在になるという傾向はあるが、それにしてもよく通りかかる場所で、夕暮れにならないと気付かないというのは、やはり昼間は花がすぼんでいるのではないかと思う。
2005年まで非常時船着場の下手一帯、安養寺の前辺りの高水護岸の周辺、多摩川緑地の低水路際にある球止め土手の法面などでよく見られた。どちらかと言えば渇いた粘土質のような土壌に根茎を張巡らせ、匍匐(ほふく)茎が地を這うように拡がっているのが普通である。ユウゲショウと異なり、刈取りが入るところにも結構多い。

左の写真、上から3枚目までは2003年5月中旬の撮影。3枚目の写真は夕方6時半頃でフラッシュを焚いた。上のものはそれより1時間ほど前の撮影。この花は何故かしぼんだ後で赤く変色する特徴がある。

マツヨイグサ類はアメリカ大陸原産である。日本には先ず南米原産のマツヨイグサが、幕末頃渡来し広く野生化したが、その後明治後期に北米産のメマツヨイグサ(アレチマツヨイグサを含む)が渡来し、急激に広がったため、もとのマツヨイグサはほとんど姿を消してしまったという。
普通月見草と呼ばれるのは、北米産のものをもとにヨーロッパで改良された、花の大きい園芸種オオマツヨイグサのこととされる。ただし牧野富太郎博士の日本植物図鑑では、ツキミソウというのは別にあり、「オオマツヨイグサをツキミソウというが、間違いである」とわざわざコメントされている。
オオマツヨイグサは明治初期に渡来し全国各地で野生化したが、戦後はアレチマツヨイグサに追われて減少したと言われている。

2005〜2006年に多摩川大橋の下手から多摩川緑地の上手(都道旧堤道路が堤防上に上がってくる地点)までの間(流路が右に大きく湾曲し近代に決壊して水害を起こした前科がある場所)で、大規模な堤防強化工事が行われた。
多摩川大橋の下手は、トミンタワーの場所でいち早くスーパー堤防が作られたが、そこから川下側の堤防裏は安養寺のような寺や墓地、小規模な町工場や住宅などが密集している。従って堤防拡幅は専ら川表の側で行われ(そのために先ず不足する高水敷の埋立造成が行われた)、堤防の幅は2倍近くに厚くされ、更に法面の傾斜が緩やかにされたため、この一帯での堤防の印象はかなり変わった。
堤防工事が行われる前には、安養寺前辺りの堤防法面にはコマツヨイグサが散見されたが、工事によって堤防法面の土は完全に取替えられることになり、その後はここの法面ではコマツヨイグサは全く見られなくなった。


左とその上の写真2枚は2013年10月22日の撮影で、コマツヨイグサとしては遅い時期となり、花は既に張りを失いかけていて印象はそれほど良くないが、メマツヨイグサではないと思われる。コマツヨイグサの撮影は10年振りということになる。
これを撮った場所は西六郷地先の植生護岸の中である。

左とその下の写真2枚は2014年4月17日の撮影。場所は多摩川緑地の低水路際にある球止め土手の法面で、上手方向の瓢箪池に近い辺り。テリハノイバラの赤い実を撮っていたら近くにあった。未だ明るさの残る夕方の4時20分頃である。

堤防改修後の近年、この辺りではメマツヨイグサばかりが目立ち、コマツヨイグサは(夜咲きであることもあるが)殆ど見られなくなった。花は同じような帰化植物ながら、コマツヨイグサは楚々として可憐さがあり、僅かでも見付けられると何となく嬉しい。



 

アカバナ科マツヨイグサ属ユウゲショウ。六郷川の河川敷では5月中旬頃から見られるようになる。花は茎の先端に付き、径1cm程度の小さなものだが、濃い目の紅紫色をしているので結構目につく。
次に紹介しているコマツヨイグサと大体同じような所にあるが、数は少なく堤防側では見たことがない。この界隈で比較的多く見られるのは、多摩川大橋下手のヤマハボート周辺、京急鉄橋下のバイオリン公園縁沿いなどで、その間のいわゆる「岸辺の散策路」の道脇でもチラホラ散発的に見られる。
花は小さく、(大きさが数段異なる点を別にすると、)花の印象は最後に紹介しているヒルザキツキミソウに酷似している。葉はコマツヨイグサに似た感じだがやや薄手で色が濃い。茎はコマツヨイグサのように匍匐(ほふく)せず直立するが、丈は精々30cm程度までで大きいものは目にしない。

ユウゲショウは花の大きさや姿がアカバナ科本家アカバナ属アカバナにそっくりの帰化植物。何故「夕化粧」と命名されたのかは知らないが、この花は同属のコマツヨイグサとは異なり、ヒルザキツキミソウと同じように日中に咲いている。
ユウゲショウは南米原産で明治時代に輸入され、その後野生化したといわれる。オシロイバナ科のオシロイバナが別名ユウゲショウと呼ばれるため、こちらはアカバナユウゲショウと呼ばれる場合がある。
アカバナの花はユウゲショウより白っぽいといわれるが、図鑑には双方の違いについて、ユウゲショウの葉は茎に互生し(一枚づつ交互に付く)、アカバナの葉は対生する(2枚の葉が茎の同じ場所につく)と記されている。
普通互生か対生かを確認する場合、あまり根元に近い部分は見ないようにする。ただ河川敷のユウゲショウをよく見ると、限りなく対生に近い互生や、対生と互生を繰返しているような茎が見られる。



 

左は多摩川緑地管理事務所近辺の堤防法面に見られる、同じアカバナ科マツヨイグサ属のヒルザキツキミソウ。
月見草の花期は夏で、通常夕方開花し、翌朝にはしぼんでしまう。昼咲月見草の花の色はヒルガオのようなピンク色で、月見草の名前とは馴染まないが、明るいうちから咲いていることでこの名が付いたようだ。
ヒルザキユキミソウも北米原産で観賞用にも植えられるが、繁殖力が強いとみえて、かなり野生化しているものが見られるという。
もとの種は咲くときは白色で、咲いた後ピンクに色付くものらしいが、園芸種としては最初から桃色で咲くものもある。大体1〜2日でしぼみ次が咲いているようである。
緑地の入口になる堤防坂道の上手、下手の低い雑草帯の中で、まとまって咲いている部分が5〜6ヵ所見られる。

この花は河川敷に一般的という存在ではなく、特異的にここで見られるのは、近くの花壇造成と関係しているのは間違いない。
管理事務所前の河川敷に道沿いに雑居花壇が造られていて、その中にヒルザキツキミソウも点々と見られる。5月初めのころには、堤防側であちこちに咲いているヒルザキツキミソウの方が断然多かったが、5月下旬には花壇の方でも猛烈に増えてきた。
法面のものは、ホソムギ、シロツメクサ、ヤハズエンドウなどと混じって生育している。咲いているものをよく見ると、ピンク色の濃いもの、白っぽいもの、薄色地に赤い筋模様が際立つものなど、場所によって雰囲気が異なるものが何通りかある。
法面では上の写真のように幾分バラけているが、路面際に近付くと下の写真のように、密集して咲いている。一旦咲けば丸1日か2日程度開いたままで寿命を全うするようである。

大正時代に渡来し、その後野生化するものが出てきたらしい。
このページに載せた3種はいずれも同属(アカバナ科マツヨイグサ属)の帰化植物だが、たまたま近くの図書館で「日本の野草」(「山と渓谷」社 1983年刊)という図鑑を見ると、載っているのはコマツヨイグサだけで、赤系の2種は載っていない。各地に普及したのが比較的に新しいということだろうか。

花壇から外に逃げているのはヒルザキツキミソウだけだが、堤防から緑地に降りる道の両脇に多いところを見ると、花壇の整備車輌が種の入った土をこぼしたなどという可能性も考えられる。
ワイルドフラワーの法面緑化性能を試験している、という可能性も無くはないなどと思っていたが、5月下旬に多摩川緑地前の堤防一帯に草刈機が入り、この周辺も全て綺麗に刈り取られた。

この草の強さを象徴する景観が川下側にある。左は六郷橋から川下側の右岸。河港水門を過ぎた辺りの、川崎区鈴木町地先の河川敷。ワイルドフラワー花壇の「跡地」である。
花壇は2002年には手を入れ整備しているように見えたが、現在では囲いは残るものの何故か雑草茫々の状況で放置されている。澪筋側はヨシ、オギ、チガヤの競合状態となり、堤防側はホソネズミムギが占拠している。このホソネズミムギと堂々と渡合っているのが、左の写真で一面に白く見えるヒルザキツキミソウである。 看板の26種の中にヒルザキツキミソウは入っていない。つまり意図的に植えたものではなく、土に種が混じってきたのだろうが、まさに荒地に強い野草であることを実証した。
金鶏菊、天人菊、ヒナゲシなどが僅かに姿を留めているが、ヒルザキツキミソウの数は圧倒的に多い。
ヨシやオギが跋扈する澪筋側の区画でも、外縁部にはこのヒルザキツキミソウが群れ咲いていた。

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