<参考26>  河川敷の春から初夏にかけての草木と花


     【オオバコ科】  オオバコ属 : ヘラオオバコ

 

5月になる頃、主として堤防法面で急速に増えてくるのが、穂先がトンガリ帽子のように見えるオオバコ科のヘラオオバコ(箆大葉子)である。(ここ数年この辺りで爆発的に増えている。法面では主としてチガヤに置き換わっている。平面への進出も目だつ。)
初期の緑色をした若い花は雌しべだけしかなく、雌しべが受粉して熟すと雄しべが出てくるようになっているらしい。白く飛び出しトンガリ帽子のひさしのように見えるのがオシベで、下から上へ日を追って順に咲き上っていく。雌しべが熟すと花は茶色に変色し、茶色部分の上端にオシベが出ている。オシベの無い上方部は未だ青いので、丁度オシベの環状部が色境にあたるようになる。
生物の進化を支えているのは、有性生殖による世代交代で、遺伝子の組合せを偶然性に委ねることが、環境変化に適応した種を残す普遍的な手段になっている。そのため生物は近親交配を避ける様々な工夫をしている。オオバコ類が先ず雌しべだけを展開し、受精した後オシベを出すようにしているのは、自家受粉を避けるための意味をもっていると考えられている。

ヘラオオバコはヨーロッパ原産で日本には幕末の頃渡来し、古い図鑑にはとくに北海道に多い、と書かれている。たしかに北の草原に相応しいような感じだが、今やこの草は六郷川の河川敷に大繁殖している。
穂の高さは周囲の他の草の高さに応じて伸びるようで、それなりに高いものも見受けられるが、根生葉しかないようなこの草が何故都会の河川敷に進出できたのか不思議に思える。
オオバコ(大葉子)は漢名を車前草という。この由来は車の通る道に多いということから来たらしい。もともと人が踏みつけたりするような道端に多いということになる。
ヘラオオバコはオオバコに比べると、花穂の長さが短く、葉幅はやや狭い。葉は全て根生葉で葉柄が長いことなどは共通している。
左の写真は持ち帰ったものをマクロ撮影した。花粉を飛ばした後のオシベの残骸が、茶色くなった熟成部分を覆い、ピンク色に見えるものもあった。

左の写真は多摩川緑地の堤防法面で2008年4月29日の撮影。

ヘラオオバコは一時堤防法面などで大繁栄した時期があったが、2015年頃には堤防法面で見ることは少なくなり、護岸寄りの藪化していない部分などで見ることが多くなった。
オオバコ同様、茎は見られず葉のみという姿だが、オオバコよりは起立傾向が強く、踏み付けにはオオバコほどの耐性はないと思われる。然し刈られた直後にはいち早く再生する姿が見られ、依然としてそこそこの株数は維持し続けている。



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