<参考26>  河川敷の春から初夏にかけての草木と花


     【ヤナギ科】  ヤナギ属 : シダレヤナギ・ウンリュウヤナギ

 
2002.4.19の撮影

左のシダレヤナギは [No.445] で撮っている木で、多摩川緑地の外れ(岸辺の散策路に近い芝地)にあり、六郷橋界隈ではかって最大のシダレヤナギだった。

現在多摩川緑地の範囲で見られるシダレヤナギは、全て土手の上の雑草帯の中にあるが、唯一上の写真の大木だけは散策路の内側になる平地に残されていた。
柳はその雰囲気から洋の東西を問わず幽霊の住処とされる。ただこのような広い場所では薄気味悪さは微塵も無く、夏場には緑が濃く涼しいので、心地よい木陰として好まれていた。

2002.9.20の撮影

シダレヤナギは乾燥に弱い以外、生命力はきわめて強い。この木も(多分雷に撃たれて)幹の上の方はズタズタにされていたが結構元気だった。

然し惜しいことに、2004年10月9日羽田沖を通過した台風22号の突風で根元から倒されてしまった。(全体に痛みが酷く、根は意外に小さなものだった。植直されることはなく処分されたが、倒れた木を見た時には、老木然とした雰囲気を感じていたので、仕方ないなという気持ちだった。)

2002.9.20の撮影

左の写真は、この木のある川下側(JR六郷橋梁の上手側の左岸)に続くシダレヤナギの様子。
[No.448] は [No.445] と同じ2002年の夏。これを書いているのは2017年だが、今に比べればこの当時(15年前)土手の上一帯のホームレスはまだずっと少なかった。)

(シダレヤナギには雌雄の別があり、枝が垂れるのは雄木の特徴とされる。一般的に言われていることによれば、日本にあるのは殆どが雄木で、春先目立たない花をつけるも実がなることはないという。)

2003.3.26の撮影

春いち早く活動を開始する高木はシダレヤナギで、3月中旬には新芽を出し、下旬には左の写真のような雰囲気になる。
左の写真は一番上に載せているのと同じ木である。写真の色が変だと思われるかもしれないが、シダレヤナギは新芽の時期には実際このように、普通の木の新芽にみられる黄緑色より遥かに黄色っぽい。萌黄色(もえぎいろ)というのはどの程度黄色掛かった色をさすのか知らないが、黄色味の強い緑色で鶸色(ひわいろ)と称する色は多分このような色である。(鶸という鳥の羽毛の色とか)

2005.3.30の撮影

JR六郷橋梁の上手側の左岸、岸辺の土手沿いにシダレヤナギの木が続くので、この時期だけは日頃見慣れない一種異様な景観になる。(じきに落着いた緑色に変っていく。)

2005.3.30の撮影

多摩川緑地のJR寄りは昭和30年代にはゴルフ場だった。この辺りの低水護岸に沿って土手のような造りが見られるのは、おそらくゴルフ場時代に球止め用に造ったものの名残だろう。
シダレヤナギは六郷橋から京急、JRを経て戸手の堤外地の向い側辺りまで、延々1キロメートルくらいに亘って点々と植えられている。川上側では垂れ下がる細い枝が、縮れたように折れ曲がったタイプ(雲竜柳)も結構多い。

2006.3.11の撮影

多摩川緑地の川下側の端になるJR京浜東北線の橋梁をバックににして、シダレヤナギを撮った。

2013.7.13の撮影 ガス橋下手

この当時ガス橋下手の低水路側に広がる荒地を調べていた。
散策路の際に大きなシダレヤナギがあるが、偶々その近辺にキジバトがいた。

2013.7.15の撮影 ガス橋下手

上のキジバトがいたシダレヤナギの散策路側の様子を撮った。枝は地面近くまで垂れ下がっていて、潜るようにしないと通れないようになっていた。
この散策路から低水路までの高水敷は荒れ地と化している。例年根付いているクズと飛んでくるアレチウリの一大競合地になっていて、良く見ないとどちらが制圧したのか分からないような状況になっている。
中央部の激しい争いの煽りをくったせいか、この近辺の散策路は丈の高い大型雑草の藪となり、遂に除草もお手上げか、2014年頃以後は行われなくなってしまい、通行人はグランド側に迂回するような状態になった。

2016.3.18

2016年の春先、多摩川緑地の低水路側、旧ゴルフ場時代の名残と思われる土手下に続く散策路を歩いていて、ふと目の前に垂れ下がるシダレヤナギの枝に目をやると、多くの花が付いているのが目に入った。
この時を機会に、この年六郷橋から多摩川大橋の間にあるヤナギの調査をしてみようと思い立った。

2016.3.18

ヤナギの種類を見極めることは大変難しいということはかねてより聞いている。しかしどの位難しいのかは実際にやってみなければわからない。
六郷橋から上手側に続く土手の上は、見た目、明らかに枝垂れたヤナギと枝が縮れたヤナギが全てと言ってよい状態なので、この一帯については紛れが無いものとして、とりあえずこの2種を1ページとしてまとめることにした。

2016.3.31

この時期のシダレヤナギは、少し離れて見れば左のような感じで、とても花を付けているようには見えない。
花は小さいし、既に芽生えている葉の色に埋没してしまうような淡い色をしているためだ。

2016.3.31

ここからの4枚は同じ日に撮った花のズーム。
花の長さは数センチ程度で、雄蕊は2本が対になって出ている。 オシベの先に葯が認められ、ヤナギ類に典型的な雄花の姿と言える。

中国北部の北京市などでは雌株も普通に存在するらしいので、何故日本には雄株しか無いという状態なのか不思議に思われる。

2016.3.31

シダレヤナギは別名イトヤナギという。
中国原産で、日本には奈良時代頃に伝わったとされている。
湿気た土壌を好み、川や池などの水辺に多く見られる。
日本では最も良く知られ、一般的にはヤナギと言えばシダレヤナギを指すと言って過言でないほどで、街路樹などを含めあちこちに植樹されている。

2016.3.31

ヤナギには各部に薬効成分が含まれ、日本ではあまり知られていないが、中国のみならず、古代ギリシャやローマでも既に薬用に利用されていたらしい。
主要な成分は、ケロリン以来バッファリンに至るまで、解熱鎮痛剤として利用され有名なアスピリン(アスピリンはドイツバイエル社の商標名で汎用名はアセチルサリチル酸)。アセチルサリチル酸は炎症や発熱を引き起こすプロスタグランジン(PG)の生合成を抑制する作用がある。

アスピリンのもつ抗炎症作用などの薬効は古くから良く知られ利用されてきたが、具体的に樹皮から有効成分が抽出され、アスピリンとして開発されたのは19世紀末のことである。だがその後も、アスピリンには様々な効用があることが分かってきて、現在もなおアスピリンの研究は続いている。

2016.3.31


2016.3.31

ここからの3枚はシダレヤナギの樹皮を撮った。
縦に深い亀裂が走ることが顕著な特徴といえる。

2016.3.31

土手上のヤナギは年々本数が減ってきているように思われる。
新たに植えられるものは無く、その一方増え続けるHLの拠点となって環境は悪化を辿る。
もともと土手上という不安定な立地にあり、そうした良くない立地の割には。木が大きくなり過ぎたことも存続を危うくさせる一因となっているだろう。
HLの火災で数本のヤナギが焼けた跡を見たことがあるし、落雷で損傷するのは日常茶飯事というほど頻発している。

2016.3.31

典型的なシダレヤナギの樹皮をズームしたもの。この深い亀裂が入った様子が特徴だ。
 


 
2016.3.31

ウンリュウヤナギは樹皮はシダレヤナギによく似ているが、枝が縮れて(不規則に捻じれ折れ曲がり)垂れ下がる。葉も波打ったり湾曲したりし平たく伸びることは無い。
シダレヤナギの葉はヤナギ類の中でも際立って細長く紛れが無いが、ウンリュウヤナギは枝葉の見た目が大きく異なるので、注意して見ればシダレヤナギと見間違うことはない。

2016.3.31

日本ではあまり知られていないが、中国北部ではペキンヤナギという種類が大半を占めるらしい。
そのペキンヤナギの変異種を固定し、園芸用に栽培種として普及させたのがウンリュウヤナギと言われている。

2016.3.31

日本でも園芸用に導入され、生け花の素材としても利用される。

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